2008年2月11日

動物園にできること

何週間か前の話だが、何十年かぶりに上野動物園に行った。
正直に言って、動物園は嫌いではない。
珍しい動物が沢山いるし、のんびりとした空気も心地よい。
でも、「動物園が好き」と胸を張って宣言することは、どうしても躊躇してしまう。
どう見ても神経症傾向と思われる反復行動を繰り返したり、明らかに肉体的な不調を抱えた動物たちを、少なからず目にするからだ。
本来はどこか別の場所で暮らしているはずの野生動物を(経緯はともかくとして)連れてきて、人工的な環境の中で飼育し、それを楽しむ人間のために展示する施設。高村光太郎の「ぼろぼろな駝鳥」を例に挙げるまでもなく、そんな動物園の有り様に疑問を感じている人は多いであろう。ぼくも動物園の動物たちを見る度に、何とも言えない気分になる。
では、動物園は「悪」なのか?
ある女性文化人(?)は、野生動物を見たければ彼らが暮らしている場所まで行って見てくるべきだ、と自身のラジオ番組で発言していた。(教育上、望ましくない場所だから)動物園やアシカショーのある水族館などには決して子供を連れて行かない、と言っている外国人夫婦を見たこともある。
しかし、個人的には、よく聞くこういった意見にもまた、すんなりとはうなずけない気分なのです。
動物園に対して、こうした複雑な感情を抱いている人は、たぶん少なくはない気がするよな〜。

などとつらつらと考えつつ探してみると、まさに同じような動物園への複雑な思いが序文に綴られている「動物園にできること」という本を発見した。
アメリカの動物園の取り組みを通して、動物園の意味と未来を探るルポルタージュなのだが、ホントにホントに素晴らしい本でした。
ルポルタージュを読んでいると、「なぜ(まったく意見を異にする)アチラの角度からも取材してくれないのだろう?、コチラの立場の人にもインタビューしないのだろう?」と歯がゆく思ってしまうことが多いのだが、この本に対してはまったくそういうストレスを感じることがなかった。著者の川端裕人さんという方の立ち位置とバランスの取り方が、読者にとってまさに痒いところに手が届くといった感じなのだ。
川端裕人さんという作家は今までまったくノーチェックだったのだが、ジャーナリストとしてだけではなく、小説家としても活躍されているらしい。
この本があまりにも良かったので、他の作品もぜひ読んでみたいと強く思いました。

「動物園にできること」でリポートされているアメリカの動物園とは色々な意味で目指す方向性が違うのかもしれないが、先日ある方のブログで見たドイツの動物園は、なんだか素敵そうな雰囲気だった(当然、犬連れもOK!)。
作者がこの文庫版で希望を持って指摘しているように、日本の動物園も色々模索しながら変わりつつあるのだろう。と言うよりも、その国の人々の動物園に対するニーズが変われば、おのずとその国の動物園自体も変わっていくものなのだと思う。良きにつけ悪しきにつけ。

それと、本題からははずれるが、近代動物園の有り様のひとつのキーワードとなる「エンリッチメント」の概念は、犬と幸せに暮らす上でもよく思い当たることだ、とも感じました。

「動物園にできること」 川端裕人

投稿者 かえる : 10:07 |

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