2007年2月11日

山の断想

釣りや山歩きといった遊びのよいところは、オフシーズン、また天候やら何やらで外に出られない時であっても、代わりにソレを(場合によってはソレ以上に)読書で楽しめるということだ。
考えてみればヘンな話なのだが、単なる技術書ばかりではなく、「釣り文学」「山岳小説」といったひとつのジャンルを形成するほどに関連書籍が充実しているのである。まあ、ありがたいのだけれど。

釣りや山歩きという行為は「アウトドアスポーツ」という捉え方も出来るが、技術の向上に必ずしも重点が置かれていない点で、一般の「スポーツ」とはやや趣を異にしている気がする。うまく言えないのだが、技能と快楽度が比例するわけではない、少なくても直結はしていない、という感じ。それがいいとか悪いとかじゃなくて。
実際の話、余計なことをつらつらと考えながらソレを楽しむ人は実に多いようだ。ゆっくり考え事したいがために、山歩きしたり、釣り糸を垂れる人すら、決して少なくないのですよ。たぶん。
そんなわけで(???)、釣りとはあまり関係のないストーリーの「釣り小説」やら、たんに登山愛好家が書いたエッセイである「山岳書」が、多数生み出されることとなるのであろう。おそらく。

その手の本で、最近読んでとても良かった一冊がある。
串田孫一さんの「山の断想」である。
「断想」とは、「折に触れて浮かんでくる断片的な考え」とのことだが、この古い本は哲学者・詩人・画家そして山の随筆で高名な作者が、まさに山歩きの折々に心に浮かんだ断想を綴った文章を集めたものである。
確かに山歩きって(ぼくにとっては釣りもそうなのだが)、断想の連続である。もっとも、ぼくらのほとんどは、それをうまく言葉にすることなんて出来ない。
だからこそ、ここに納められた短文や詩や思索を、山に行けない午後に拾い読みしては、ふむふむふむとうなずきながら感動するのです。

「私の中で、山は結晶する。経験の重なりや、記憶や想い出とはおそらく別のところで、旧い山やついこのあいだの山が、自分でも驚くほどの美しさで結晶することがある。
<中略>
それは山から持ちかえった無形のような、幻のような記念品である。山で写した写真や、そこで描いたスケッチは、忘れかけていたものを想い出させるのに役立つだろう。それはまた、友に向って私たちが雄弁に山の物語をするのに大層役立つものである。あるいはこれもまた、もう一度同じような山の風景の前に立ちたいという気持ちをさそい出すかもしれないけれども、この結晶となって私の中に残されたものは、もっと別のものである。宝石を所有する者以上に、それより遙かに豊かな気持ちになって、誇りを持たせる。
この結晶は、いつか消えてなくなることはないだろう。他人にこれだと言って見せられるものではないが、しかし私はたしかにもっている。大切にしようもないものだし、また眺めたい時に取り出して見られるようなものでもないが、そういうものを持っていることを想い出す時、それだけで喜びに囲まれる。」


「山へ向い、山でいこう人たちは安易であってはならない。山の中での自分の変化を期待し、未知なる自己、長いあいだ忘れていた自己の発見を注視しなければならないだろう。人間として、当然願わしいそれらの営みは、自然を信頼し、山を信頼するところに始まる。欺くことのない自然は厳しい。しかしその厳しさを知ったものは、さらに自然の寛容をも知るにいたる。
そしてこの大きな信頼と寛容とを、山に向かうことによって学び得た者は、その同じ息づかいによって、人類にたいして寄せるべき信頼と寛容とを学ぶこともできるはずだ。
山は私が死んでも、人類が死滅しても恐らく、青空にそびえ、その山頂は雲の去来に見えかくれするだろう。人間を越えたその自然は、実は私どもの庭にも路傍にもいっぱいある。そのことを山で覚えれば、それは大きな収穫である。」


串田孫一著「山の断想」(大和書房)より


なんだか難しいけど、哲学チックでかっちょいい〜〜〜!!!!(バカ丸出し.........)
昔々、秋元康さんが作詞した「サルトルで眠れない」(早瀬優香子)という名曲があったが、まさにそんな気分(意味不明でしょうが........)。

まあともかく、とってもお気に入りの一冊となりました。


※蛇足ですが.........
前にも書いた気がするが、アウトドアメーカーのカタログ眺めるのも、オイラにとっては自宅にいながらにして楽しめるレジャーなのである。
先日、仕事帰りに立ち寄ったOD-BOXで、Snow Peakの新しいカタログをいただいてきた。
新製品目白押しっぽいのは喜ばしいのだが、「剛炎」とか「火起師」とか、ネーミングセンスがなんだかモンベル化してないか?!
それって、マズくないか〜〜??!!!

投稿者 かえる : 23:38 |

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